2013年5月6日月曜日

また騙された話

ここ二年ほど、 3d-coat というアプリを使っていまして。
モデリングは Lightwave のキーバインドが骨身に馴染んでいて角張ったものから有機的なものまで Lightwave 一本で効率よくモデリングいけるのですが、テクスチャとなると気が重い。
なんせ Lightwave はモデリング以降のフローにおいてサードパーティプラグインへの依存度が非常に高い。
僕は Mac 版ユーザー。こうしたプラグインは Windows 版のみの対応ってのが多いので、プラグインが不足している感は否めない。本格的に高速なレンダリングを目標にそこそこのディティールを持つ有機体……となるとちょっと運用が厳しい。
そこで 3d-coat。
こいつはとても安価なスカルプトソフトです。買ったときは最初 $250 くらいだったかなぁ?
ボクセルベースを特徴としていますが、最新版はサーフェイスモードもサポートしています。
ややワークフローが硬直しており、そこは慣れが必要ですがとにかく出来がよく、スカルプト、リトポ、UVラップ、テクスチャの焼き込みまでをかなり快適に行うことができるのですね。
Mac 版もあり、プラグインへの依存が少ないので問題なく利用できます。 Mac 版と Windows 版での差異はせいぜい、 CUDA のエンハンスメントが使えないことくらいです。
しかしこの 3d-coat の最大の良さはサポートの良さではないかと僕は思います。
フォーラムでの開発者のリアクションは、いったいどこからこのモチベーションが湧いて来るのかと心配になるほど速く、ベータ版リリースサイクルは遅いときでも二週に一度程度、早いときは週に二度、三度といったペースです。
もちろん自分の踏んだバグを一番のプライオリティで直してもらえるわけではないけど——そこは技術者として詳細なデバッグ情報を提供して「たぶんここが間違ってる」まで言えれば速攻で直ります。
(こういうとき、 mac 版なら即座に gdb で重要な情報だけを抽出して提供できる)
本業でもこんなスピード感はなかなか体験できない。提供するのもどれほど難しいかよくよく知ってます。それだけに素晴らしい。
ワークフローごとに機能の重複があるので、この辺の機微を巡ってはフォーラムで開発者とパワーユーザーが衝突することもあるのですが、殆どあらゆる点で僕はこのソフトと開発者たちを尊敬しています。


 

悪い例


素晴らしいソフトもあればあまりにそうでないソフトもある——。

Project messiah をご紹介しましょう。

誤解なきよう最初にお断りしておくと、 messiah は優れた機能を持つソフトです。
高速且つコントロールし易いクロス/ソフトボディシミュレーションや GI レンダリングは他の追随を許さない気がします。
こんなに素晴らしい機能に恵まれていなければこんなソフトは早々に捨てるが、それができないくらいにはこのソフトの *機能だけは* 素晴らしい。

機能以外での悪い点が多過ぎます。
  • Mac 版は重要な機能が使えず、運用不能
  • ライセンスが不安定。動きさえすれば御の字
  • バグがあってもまずパッチは出ない。レポートは無視される。運が良ければ次期有償アップグレードで直るかも……
  • サポートなし。困っていても基本時間切れ狙い
  • ロードマップ不明
  • ドキュメントが雑
  • 詳細な説明は動画で。しかも別売り。
  • あらゆる点でベンダーとしての説明なし
一目で「そりゃーないよ」ってのもありますが、まぁ、説明していきましょう。

messiah は、Lightwave 開発チームからスピンアウトした人達が開発するソフトです。
Lightwave を反面教師とし、且つ相互運用性が高さもウリになっています。
当初、 Lightwave の Layout はもう終わった、これからは messiah があるとまで言われたものです。

フリーウェアでしょうか?いいえ、商用ソフトです。
Pro 版は $499 だったかなぁ?結構いい値段でした。しょっちゅうディスカウントしてますのでフルプライスで買った僕が不幸なだけでしょうか。
その出来は……Auto Rig がデフォルトで face camera を生成する癖に face camera があると即ハングする時点でお察しというべきでしょうか。
face camera 消せとか四角ポリゴンは即死とか、その程度のことであればフォーラムに書いてあるかも知れません。

公式サイトには Mac 版があると書いてあります。スタンドアロンライセンスで、 Mac/Windows 版を個別に利用することはできません。

ところが Mac 版はなんと Crossover で動作する Windows 版です(ライセンスは別)。
まずこれだけでドン引きですけどパフォーマンスも良く、見た目がしょぼいだけでちゃんと動きます。逆に「最近の wine は本当凄いなぁ」と感心してしまうほどです。
ただやっぱりマウスの動き周りにどうしようもない齟齬が多く、ミドルクリックを超多用するインターフェイスなので Mightmouse では死亡します。
マウスの振る舞いはそこまでカスタマイズできず、逃げ道がない。
仕方がないので別のマウスを接続して使っているけれど、 wine のミドルクリックの対応が今ひとつなのかしょっちゅうおかしなことになってアプリの再起動が必要になります。
一応動くけどもとてつもなく使い難い。
それでも我慢して使っていくと……まぁモーション付けまでは意外にも結構使えます。

まずもってライセンスシステムが動かずに全く使えない人がフォーラムに沢山いる手前、幸運にも動作した僕はそれだけでハッピーとは言えましょう。
だってこれ、ライセンスの問題なのに開発者が全然対応しない。

messiah のウリは Lightwave との相互運用性が挙げられます。
でも messiah が Lightwave ブリッジに使うプラグインは Windows 版しかなく、Mac では事実上この機能は死んでいます。
僕はこの点については宣伝に致命的な偽りがあると問題視し、サポートフォーラムで文句を言いました。

僕が知る限り、サポートフォーラムでは開発者が返事をすることはまずありません。
スレ立てして逃げます。まるで釣り堀です。
返事は開発者に代わって、初期ユーザーの人が一人で頑張って返事をしますが、ほぼ返事になってません。
よっぽど FAQ でない限り問題を解決できる可能性は限りなくゼロに近い。
僕が Mac 版では Lightwave と相互運用できねーじゃんよと文句を書き込んだところ、その一人の初期ユーザーから「FastMDD というプラグインを使えば良いよ」といわれました。

Fast MDD は MDD ファイルを生成、さらにそれをパイプとして利用し、本来 messiah が行うべき Lightwave との HUB として利用できるプラグインです。
別売り。
$40。
ふざけてんのかと思いつつもこれを買いました。
ですが Fast MDD はバグっており、やっぱり使えませんでした。
(ちなみに個別にライセンシングされている。このライセンスが動かないという人もしばしばいて、フォーラムでの解決例は知りません)

messiah もそうですがそのプラグインもロクにテストせずに売ってます。
この人達は皆エンジニアではありません。アーティストなのです。
プラグインの開発者だからといってエンジニアと思って話をすると面倒なことになります。
まぁ、それでもなんとかバグってて使い物にならん状況を伝え、直すと確約させました。
半年経ち、どうなったか訊ねるとようやく直したと言います。一年経ち、どうなった訊ねるとようやくテストを始めました。それから更に一年以上経ちますが、未だに修正版はリリースされません。

どうしようもねーこいつらと思って放置してたのですが、その間もフォーラムにはたくさんの苦情が書き込まれています。
大半のユーザーは Mac 版が Crossover であることに怒っており、怒っているんだけど彼らは殆どの場合、具体的になにがまずいのか上手く伝えられない。
流れとしては大体以下のような感じ。
 モデレータ(M)「いや、 Crossover は優れてるよ。何にも問題ない」
ユーザー(U)「問題あるんだけど」
M「とにかく wine は素晴らしいよ」
U「……」
M「wine は優れてるのになぁ」

モデレータ(正確にはモデレータじゃないが、返事をするのは基本的に彼しかいないので便宜上モデレータとします)の主張は解る。確かに、 wine は僕らが思うよりずっと優れている。アレルギーを起こす前にちゃんと評価すべきだ。
だがそれは開発者にもまったく同じ事がいえる。
Wine は素晴らしいけど、 messiah は Mac 上でちゃんと使えるだけのテストを行っていない。Wine はエミュレータじゃないのだから、まったく同じにならないのにまったく同じになると前提して商売している。
そもそも一部機能が使えないことに対応がないばかりか、それについて何の注意も説明も行っていない。
フォーラムに書き込まれる報告について大半はモデレータ兼パワーユーザーの"まったくみんなどうかしてるよ"とのボヤキや、内輪受けみたいなジョークで終わることについてもっと深刻に考えたほうがいい。

そしてまた最近にも同じ話題が繰り返されていました。

U「Ver6 はまだ Crossover なのか?ネイティブにしろよ。まったくがっかりさせるぜ」
M「Mac はしょっちゅう OS が変わって互換性が崩壊するからネイティブサポートはできないよ」
U 「問題なきゃいいよ。問題があるんだって」
M 「具体的に何が悪いんだい。 ちゃんとバグレポしたかい?」
U 「したよ。messiah じゃ普通のことだが、無視された
M 「Crossover はともかく Wineskin を試せよ。こいつは全く素晴らしいんだぜ」
U「俺アーティストだからわかんない。どうやって試すの」
M「Wineskin は最高なんだぜ。Crossover とは大違いさ」
U「だから、どうやって試すかって聞いてんの」
M「……」

モデレータの言い分も少しは解る。 Mac はしょっちゅう OS の互換性が崩壊するよね。 (彼が別に述べていた「apple はプロユーザーを放置してる」ってボヤキも、ソフトベンダが mac サポートを熱心にできない理由にはあるだろう。だけど世の中、同じ分野で 3d-coat みたいなサポートをしているベンダだってあるんだぜ)
でもそれを全部 Wine が吸収してくれるかっていうとそうじゃないから、開発できないんだったらサポートもできない。開発できないサポートできないなら商売できなくね。ならそもそも間違ってたんだよ、前提が。

遡ること数ヶ月、今年の初頭には「messiah v6 が出ます!今なら$99でアップデートできます!」ってキャンペーンが行われていましたが、その v6 が

  • いつ出るのか?
  • どんな機能があるのか?

それについて全く記載がありませんでした。
実は同じ商売を Lightwave がやって思いっきりぶっ叩かれました。Lightwave は新バージョン CORE を発表し、早期ユーザーから開発費を集めて開発していたのに CORE の開発は頓挫。
結局、ユーザーにはちょっと修正しただけの 10.1 が送りつけられた経緯があります。
Lightwave は公式に謝罪して返金に応じました。
たしかに Lightwave の Modeler/Layout 分離のアーキテクチャはボーンを始めマテリアルの設定までかなり不自由なものでした。かといってコードをゼロから書き直すというのはそういうリスクがあることだよね。僕は文句を言わず 10.1 を受け取りました。

messiah は何の約束もなく金集めを始めたーーそんな風に見えました。
さすがはスピンアウト組だ、 LW を反面教師にしている、とね。
Lightwave  は挫折こそしましたが誠実でありました。 CORE への出資者への報告を怠らず、雲行きが怪しくなったときはちゃーんとヤバさを出してました。一方で messiah の不誠実さは折り紙付きですから。

先月始め、「messiah v6 がリリースされたよ!今なら $99 だ!」というメールが届いたときには「おお」と思ったものです。
メールのリンクから新機能ツアーを観に行くと、地味ながら効果的なフィーチャーでした。
そりゃメジャーアップデートって感じでもないけど……バグフィックスとかあるし……まぁご祝儀込みでアリかなぁというところ。
ただでさえギリギリだったのに OS は今や Lion ですし、 Lion にしてから動かしてないけどまず動かない気がするしさぁ、アップデートしとくかーと思ったわけです。

$99 払う。

そしてダウンロードページに行き、僕が見たものとは……!




か、か…、

かみんぐすーん。

リリースされましたってメールで言ってたじゃん。
俺がさー Windows 版のユーザーじゃないって知ってるよね? Mac 版のライセンスしか持ってないって。直メールで来たんだから。

フォーラムを見ると案の定お怒りの人がいました。4/3 のスレッドです。流れを意訳すると

U「おめーらさー、 messiah v6 がリリースされましたっていうから買ったんだよ? Mac 版のリリースがまだってどういうことだよ。 Mac 版は messiah v6 じゃないのかよ!?」
M 「落ち着いて。これはね、ソフトリリースってやつなんだよ。プラットフォーム毎に出すのさ」
U 「はぁ?それは開発者が言ってるの?どこで?なんて?このフォーラムを見ろよ、開発者による、たった一行の説明すらない。納得できないよ

時期も示さなきゃ説明もない。
そんないい加減なソフトリリースなんて聞いたことがありません。
なめてるとしか言いようがない。
いつも丸め込みに終始するモデレータも今回は精彩を欠く。 なんせこのユーザーのコメントは

しかもこの左側に書いてある説明文。

Lion のユーザーはインストールができません。
まず Windows にインストールしてから Mac に持って行ってください。ライセンスを移行?(coverting)できるようにします。

wineskinを拾って来て実際に試してみると、たしかにインストーラーすら満足に動作しません。
最新開発版でも最新安定版でも同じことでした。ログを見てもエラーらしいエラーは出てませんが、とにかく setup.exe がないというので msi インストーラーを正しく展開できてないようです。
(唯一出ているエラーメッセージは shared storage を未サポートだというもので、これは .net2.0 を使う限りは一通りでるメッセージのように見受けられます)

説明がないから想像するしかありませんが、つまりこういうことです。

まず彼らは Windows 版を作った。
彼らの中で wine は最高。どの Mac でも Windows と同じ環境ができると思っていた。
でも動かなかった。
wine は直せない。
だから mac 版のリリースは延期。
いつまで延期するか? wine が動くようになるまでに決まってる。
でも販売を延期するつもりはなかった。それらの説明なく販売開始。
はっきりと文句を言われても説明はしない。少なくともここ一ヶ月、一切説明なし。


ああ、いつもの messiah 開発チームだ。
でもリリースされていないということは、最低限インストールが出来るかどうかのテストくらいはしていたんだな。よかったよかった。

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